筆のまにまに 〜浮世坊主のとはずがたり〜

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<<   作成日時 : 2008/03/08 21:40   >>

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先日、横浜能楽堂にて能「七騎落」のツレを勤めさせて頂きました。


意外と「出そうで出ない(?)」能。ですが、謡曲のお好きな方や同業者たちにも、かなり人気の高い曲です。私も好きです、人情物。私生活そのものがドラマチックだからでしょうか☆ ←意味不明


今回、私は「田代信綱」の役をさせて頂きました。これは合計7人のツレの中でも、なんと1番手の役!・・・・・といっても、ほとんど座っているだけの役なのですが。
それでも、主従合わせて八騎になる上では、一人として欠けることは許されない、重要な役です。(当然ですね)

ただ、過去に二度ほどこのツレ役を頂戴したのですが、その時は確か「新開次郎」の役であったと記憶しております。

実は、個人的にもそのほうがしっくり来るのですね。なぜかというと「次郎」なので。

そんなこともあり、楽屋においても「二郎は二番手だな」「いえ、今日は一番です」と言った会話を何度も致しました(苦笑)


ちなみに、歴史大好きな某御方が、楽屋内にて今回登場するツレ一人ひとりの歴史的背景や経歴などを、とても細かくご披露されておりました♪いつものことながら、その博識ぶりには脱帽の思いです☆


さて、いよいよ本番。頼朝役を筆頭に、シテの実平、そしてツレの面々が舞台に登場し、次第を謡い上げる。その後、頼朝は床机に腰掛け、他のツレは舞台上に座す。あとはひたすら我慢の時間・・・・・。


さて、これは本当に個人的なことなのですが、実は私、座るツレはさほど苦手ではないのですが(もちろん、足は絶叫したくなるほど痛いですが 汗)、今回のように「直面=能面をかけない素顔の役」の場合のみ、ちょっぴり苦手意識が芽生えてしまうのです。

なぜかと申しますと、ご存知の方もいらっしゃると思いますが、私、結構な「近視」なのです。
無論、眼鏡は常時かけております。外すとかなり怖いので。

ただ、舞台に上がるときは、コンタクトレンズをつけない、完全な裸眼状態なのです。
そうなりますと、当然のごとく見所にいらっしゃるお客様の顔は、完全にぼやけて見えます。まあ、それはそれで変に緊張しなくて良いのですが、ただこのぼやけた状態で、「片膝立て」の座りを致しますと、実は結構バランスをとるのが難しくなるのです。

そんなこともあり、私はまずこの片膝立てに座りますと、まっすぐ見据えた視線の先に映るものを「目標物」として定め、そこから目線が一切動かないように心掛けているのです。

ただ、これは時として、お客様に変な意識を持たれてしまうことにもなりかねません。

いつのときか、一度、このようにして目線をまっすぐに据えた際、たまたまその視線の先に私のお弟子様がいらっしゃいまして・・・・・。

一瞬、私も心の中で「あっ」と思ったのですが、なんと次の瞬間、そのお弟子様がご丁寧に、舞台上の私に向かって「ぺこり」と会釈をひとつ。

それから暫くは、自分の頬がヒクヒクと痙攣しそうになるのを必死に堪えるのに難儀いたしました(苦笑)


それ以来、なるべくお客様と視線を合わせないように充分心掛けている私。今回も、それに習い、お客様のお顔ではなく、何か手元のお荷物(カバンや帽子など)に視線を定めるように注意いたしました。

さて、ちょうどよき案配に、前方のお客様のお手元に、何やら白い布地のものが見えました。
もっとも、前述のとおり裸眼状態に私にはそれがぼんやりとしか見えないのですが、ちょうど自分の視線もほどよい位置に定まったので、今回はこれを目標と定めようと心に決めました。

ところが暫くして、その白きものが何やらせわしなく動き出した。

一体どうしたことかと思っていると、どうもその白きものは、その御方の「ハンカチ」だったようで、そのハンカチが、何度もその御方の「目」のあたりをしきりに行ったり来たり。

どうやら持ち主であるお客様が、途中でしきりに涙を拭っていたようなのです。

さてこうなると困ったもの。なにが困ったかと言うと、実は私、かなりの「泣き上戸」でして。しかも自称「もらい泣きのエキスパート」なのです。

もちろん、映画やテレビを見ていて、少しでも感動的な場面があるとすぐに涙を流すのですが、それに加えて、人様が泣いている姿を見かけると、涙が倍増してしまう傾向にあるのです。

今回の能「七騎落」は、特に泣ける場面がいくつかございます。
私も、当然、謡を知っているだけに、その場面にさしかかるとただでさえ泣けてきてしまうのに、このままでは完全に「もらい泣き」状態に入ってしまう・・・・・・。

と、ここで良きタイミング(?)で、ツレの一同が一斉に橋掛かりを見込む型が!
その後、暫くして再びもとの位置に戻り、座りなおすチャンスが訪れたのです。

そうしたら、今度は微妙にその場所を変えることが出来る。
まんまと座りなおし、今度は以前よりもやや右に身体をずらし、新しく視線を定めた次の瞬間、



前方のお客様は完全に号泣していました。



もっとも、駆け抜ける足の痛みに辛うじて涙は抑えられましたが、まだまだ自身、修業が足りないなあ、と実感いたしました(汗)







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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
「田代信綱」氏、おつかれさまでした。
こういう役者の方ならではのお話をお聞きするのは、本当に楽しみです!
ずいぶん前に、京都のシテ方の先生から、「野宮」の舞台から目線の先に見所の女性の帯が見えて、それが車争いの図柄であったことに、ああ、と思った、というお話を伺ったことを思い出しました・・・
良い観客となることも大切なのですね。
ウースター嬢
2008/03/14 13:33
ウースター嬢さま

コメント有難うございます♪
もちろん、普段は舞台に集中しておりますので、見所の様子に気を取られるなどというようなことは、決して・・・・・・(以下、想像にお任せ 笑)

それにしましても、「車争いの図柄」とは、何とも素敵な偶然ですね。

我々はお客様に舞台を楽しんで頂くことが一番の役目ですが、何気ないきっかけで観客と舞台が一体化したときの喜びは、言葉では表しきれませんね♪

「良い観客」とまでは行かずとも、その日限りの舞台において、役者とお客様が「良い関係」になれる、そんな舞台を日々目指しております。なんと言っても、能の舞台はライブですからね☆
管理人
2008/03/17 21:22

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